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コラム

第10回 鴨居 功樹 東京医科歯科大学 眼科 講師

鴨居功樹

「HTLV-1と眼の病気」
 見えにくい、何か飛んで見える、眼が赤いなどの症状はありませんか?HTLV-1は眼に病気を起こすことがあります。一つはHTLV-1キャリアに起きるHTLV-1ぶどう膜炎、もう一つはATL患者さんに起きるATL関連眼病変です。私は東京大学医科学研究所附属病院でHTLV-1ぶどう膜炎・ATL関連眼病変専門外来を担当していますが、受診される患者さんとお話させて頂くと、「このまま見えなくなってしまうのですか?」「ウイルスは消えないからまた繰り返すのですか?」と心配される方が多くいらっしゃいます。私たちは視覚から外界の情報の80%を得ていますので、見えにくくなると身の回りの情報が少なくなってしまい、とても不安に感じてしまいます。
 これまでにHTLV-1による眼疾患のある患者さんの不安を解消すべく、全国の眼科施設にご協力頂きながら、HTLV-1に関連する眼疾患の調査・研究を進めきましたが、それによって多くのことが分かってきました。例えば、HTLV-1による眼疾患は九州など西南地方のみならず全国各地でみられ、特に都市部で多くなってきていること、HTLV-1ぶどう膜炎は女性に多く、硝子体混濁を特徴とし、甲状腺機能亢進症や緑内障を合併しやすいこと、またATL関連眼病変としては眼浸潤・日和見感染(特にサイトメガロウイルス網膜炎)・ドライアイ・強膜炎が多いことなどです。
 HTLV-1による眼の病気は、肉眼的な診察だけでは正確な病状を判断することが難しい場合があります。しかし、近年眼科領域における診断法が格段に向上し、わずか0.1mlの眼内液を採取し検査することで迅速に多くの情報が得ることができるようになり、正確な病状を把握することが可能になりました。また治療においても、眼科だけでなく血液内科など他科と協力して点眼・眼注射・内服・点滴・放射線照射などを適切に組み合わせることで、効果的な治療ができるようになってきました。
 このように全国の眼科医から寄せられた情報、診断法の向上、また眼科と他科との綿密な連携による治療によって、HTLV-1による眼疾患は以前に比べ、より良い診療ができるようになりました。しかしながら、まだわからないことも多く、改善の余地があります。キャリアの皆様からご登録して頂く「キャリねっと」を通じて届けられる貴重な情報は、今後のさらなる眼科診療の進歩につながると考えています。
 近い将来HTLV-1による視力障害に苦しむ患者さんがいなくなることが、HTLV-1診療に携わる眼科医としての私の願いですし、そのために一層努力していきたいと思います。

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