コラム
第2回 内丸 薫 東京大学医科学研究所附属病院 血液腫瘍内科 准教授
「母乳をあげるということ」
私ども東大医科学研究所附属病院では毎週2回HTLV-1キャリア専門外来を開設しています。そのうち1回は初診枠で、ここを受診される方のうち多くの方は、HTLV-1キャリアとわかったことで不安に感じていることや疑問などを持っておられる方を対象として、それに対する相談窓口の様な対応をしています。医科研にキャリア外来が設置されて10年になり、これまでたくさんのHTLV-1キャリアの方に外来でお目にかかりましたが、お一人お一人のお話に大変重みがあり、人生ドラマを聞かせて頂いているような思いになることもしばしばです。そんな中で、キャリア外来をやっていて私には初めて分かったこともあります。その中の一つは女性のおっぱいに対する思いです。これは、我々男にはわからないものなのかも知れません。
キャリア外来では多くのお母さんにもお目にかかっていますが、その中には子どもを産んでから20年近く経っているというお母さんもいらっしゃいます。そういうお母さんたちに、当時どういう指導を受けたのか、実際どうしたのかということをうかがって断乳を選択したお母さんの場合、そのことを大変辛そうにお話しになるお母さんが多く、母乳をあげることを断念した話をしながら涙ぐまれる方も珍しくありません。女性にとって自分の子どもにおっぱいを飲ませてあげたいって思いはそんなに強いのか、おっぱいを飲ませてあげられなかったという悲しみ、悔しさは10年、20年経っても消えることはないのか、改めて思い知らされます。我々は妊婦さんに指導する時、妊婦さんがどのような気持ちでそれを聞くだろうかということをよく考えなければならないということをあらためて教えられます。女性ならよくわかるのかも知れませんね。