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コラム

第3回 山野 嘉久 聖マリアンナ医科大学 難病治療研究センター 病因・病態解析部門 部門長/准教授

山野嘉久

“ハム”という病気のこと
HAMという病気をご存知でしょうか。
この病気はHTLV-1関連脊髄症という病気の略称で「ハム」と呼ばれています。日本におけるHAM患者は約3000人といわれていますので、おそらく、ほとんどの方がご存じないと思います。HAMはHTLV-1というウイルスが原因で起きる脊髄の病気です。脊髄とは、背骨の中を通る太い神経のことで、手足や体を動かしたり、汗をかいたり、排尿や排便の調整をするための神経が束になっています。HAMが発症すると脊髄の神経に異常がおこるため、転びやすくなる、走れないなどの症状が始まり、徐々に悪化していきます。患者さんによって症状は様々で、軽症のまま長年進行しない方もいれば、比較的急速に症状が悪化する方もいます。残念ながら、これまでは特効薬といえるような有効な治療法がなく、HAMの患者さんは大変な生活を強いられています。
私はHAMの診療に携わる中、HAM患者さんやそのご家族とも関わってきました。HTLV-1というウイルスは主に母乳を介して感染するため、患者さんの親や子、兄弟にHTLV-1感染者(キャリア)がいる場合があります。HTLV-1に感染していてもHAMを発症するのは0.3%、すなわち1000人に3人くらいと確率は非常に低いのですが、身近にHAMと闘っている家族がいると、自分も発症しないかという不安が常につきまといます。私たち医師や研究者も、HAMが完治するような治療薬や、発症を予防する方法を開発しようと日夜頑張っていますが、新薬の開発には時間がかかり、一朝一夕にはいかないのが現実です。そんな中、患者会の方々から「自分のような苦しみを子供や孫の世代には残さない!」という強い声が上がり、患者さんやご家族の地道な活動が実を結び、平成23年に国による“HTLV-1総合対策”が始まり、感染予防対策として、全国の妊婦さんへのHTLV-1抗体検査が無償で行われることになったのです。
HTLV-1の母乳を介した感染は、全体の約6割といわれています。キャリア妊婦さんに適切な授乳指導が行われ、赤ちゃんへの感染を防ぐことができれば、次世代のHTLV-1感染者は激減し、HAMやATL(成人T細胞白血病)などのHTLV-1によって起こる病気を撲滅することができるかもしれません。もし、あなたやあなたの近くにいる方がキャリアであると診断され、不安に思っているならば、勇気をもって、ぜひキャリア外来のドアを叩いてください。私たちが待っています。

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