コラム
第4回 渡邉 俊樹 東京大学大学院新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 教授
「HTLV-1感染者登録?」
HTLV-1感染は、白血病・リンパ腫であるATL、慢性の神経疾患HAM、さらに再発性の目の炎症であるHTLV-1ぶどう膜炎など、幾つもの異なった病気の原因となっております。私たちは、広い意味での慢性ウイルス感染症として包括的に捉えて、感染の予防、疾患発症の予防として治療法の開発に向けて研究を続けてまいりました。このような視点から見直しますと、この領域では幾つもの基本的な情報が欠けていることに気付かれると思います。例えば、インフルエンザは、毎年、何型が流行する型と感染者数について報道されております。それは、感染症法によって感染者を報告することが義務付けられているからです。この法律では、人に病気を起こすもう一つのレトロウイルスであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染が第5類に分類されて、やはり全数報告の対象となっております。一方、HTLV-1に関しては、現在どこに何名の感染者がおられるのか、HTLV-1感染で発症する各疾患はそれぞれどこに何名の患者さんがおられるのか、などの基本的な情報が明らかでありません。この様に、HIV感染とHTLV-1感染の取り扱いは著しい対照を示しております。
では、HTLV-1感染も上記の様な感染症と同様に感染症法で全数登録を規定すれば良いのでしょうか?私は、簡単にその様な主張をすることには大きな問題があると考えます。まず、このウイルスが、ヒトにがん(白血病)を起こすウイルスであること、地域的に感染率に大きな違いがあること、およびその特有の感染ルートのなどが、問題だと思います。これらを考えますと、安易に感染症法を改正して登録制にすれば良いという議論には与することができません。ただ、将来的には、その様にするのが医学的には正しいと思います。そのためには、その前提となる事柄がたくさんあると思います。具体的には、ウイルスに対する皆様の理解を進めて、このウイルスを特別扱いしなくても済む様な理解を広めてゆくこと、感染予防の方法が存在すること、疾患の発症予防法が開発されることなどです。
この様に考えますと、感染の実態を明らかにし、キャリアの方々が抱える問題を拾い上げて正しくとらえて施策に反映して行く上で、キャリアの皆様が自発的にこのサイトに登録されて様々な情報をお知らせいただくことは、とても大きな意義があると思います。皆様のご協力、政府の「HTLV-1総合対策」をさらに推進して行く大きな力になることを確信しております。