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コラム

第6回 末岡 榮三朗 佐賀大学 臨床検査医学 教授

末岡榮三郎

声を届けてください。
 佐賀大学病院HTLV-1専門外来を担当しています、末岡です。医者になって約30年間、多くの成人T細胞リンパ腫・白血病の患者さんやHTLV-1キャリアの方々を診させてもらって、HTLV-1感染症の方々のことはわかっている気持になっていました。ところが、私が見聞きしてきたことは、その方々の悩みや思いの一部であることに気づかされています。
 佐賀大学病院HTLV-1専門外来は、2012年にスタートしましたが、佐賀県の補助を受けて開設されたこと、臨床心理士によるカウンセリング体制を整備したことなど、すこし変わった外来です。開設以来受診者数は160名を越えました。私がお話を聞き、簡単な診察をし、検査を受けていただく。ここまでは通常の外来ですが、そのあと、臨床心理士のTさんによる面接をさせていただいています。その面接の10~30分の間にキャリアの方々は、様々な悩みや思いを打ち明けられます。特に、妊婦健診で初めてキャリアであることを告げられた方が、母乳育児を制限した場合の自身の失意、周囲からの質問や叱責、感染経路への疑問や苛立ちなど、私の前では言われなかった(言えなかった)ことをTさんとの面接の中で、少しずつ話されていきます。「妊婦健診で陽性とわかった時、キャリアは断乳が当然といわれた。その時は十分に相談ができなかった」、「子どもに母乳を与えられない自分を責めた」、「周囲からはなぜ母乳を上げないのかと責められた」、「子どもが婚期を迎えるような年齢になり、自分の感染を打ち明けるべきか悩むようになった」など、内容は様々で、その悩みの重さは一人ひとり異なります。
 2011年から始まった国のHTLV-1総合対策も5年を経ようとしていますが、HTLV-1感染症や関連疾患で苦しまれる方がいなくなるまで、パワーを継続してほしいと個人的に思っています。予防法や治療法の開発はどんどん進んでいくと思いますが、今現在悩まれているキャリアの方々の現状を知ることはとても重要です。このキャリねっとを通じて、自分が感じる現状での問題点や悩みの内容について、声を届けていただきたいと思っています。

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